1回
2022/01 訪問
幸福感があふれだす、最も大切にしたいと思う人とシェアしたいお店
静かな住宅街。
そこにひっそりとETEがある。
思わず通り過ぎてしまいそうになるほどそれは控えめだった。
インターホンを押して名前を告げると、ご本人自らが出迎えてくれ、お店の中へ案内してくれる。
まるで誰か友人の宅へ訪問したかのような感覚だ。
上着を預け、席に通される。
決して広くはない部屋の中央にひと際オーラを放つ大理石のテーブル。
そしてその奥には暖炉があり、窓には先ほどのテーブルが反射して鏡のように部屋を映し出している。
おそらく全て計算された造りになっているのだろう。
1日1組限定。
それはシェフがその日のゲスト、特に訪問時間に合わせて料理を作るため。
本当に大切な人と、最高の時間と食を共有できる空間がここなのだ。
結論から言うと、料理もお酒のチョイスも、そしてデザートも、想像をはるかに超えるものであった。
フロリレージュ出身ということと、これだけ入店困難度が高いのにも関わらず、行きたいという人が後を絶たない人気店なのだ、こちらも相当な期待していたが、その期待を超えてしまったというわけだ。
1皿1皿に驚きとため息が混在する。
この料理を何と表現すればよいのか自分の語彙力では難しい。
「ただ、美しく旨い」
これ以外の表現方法が見つからない・・・。
・パンケーキにキャビアとバターをのせて頂く。
ほんのりとした甘みと塩味のバランスが絶妙だ。
・来現時間に合わせて焼き上げたブリオッシュ。
大きな丸いブリオッシュを割ると、香ばしい香りが鼻腔を抜けてゆく。
・蟹の香りが全身を駆け巡るスープ
スープに蟹のうまみが臨界点ぎりぎりまで移りこみ、最高の味わい
・トリュフで蓋をされたお肉料理
まるでトリュフのようなお皿で提供され、中央の蓋を割ると中からは柔らかいお肉が顔を出す。
・朴葉のおこわ
まさにイノベーティブフレンチ、朴葉を使ってくるとは想像もできなかった。
どの料理も芸術品と言えるほど鮮やかで、全ての食材がお互いの良い面を引き上げている。
一体この1皿を創り出すのにどれだけの時間と手間をかけたのだろう。
こちらの部屋で食すのは一瞬だが、あの扉の向こうでは、途方もない忍耐と努力、直感や思考の蓄積が、料理という形になっているのだ。
今日、ここに来れたことを改めて感謝したい。
そして料理だけでなく、器も素晴らしく、空間に一切の無駄がない。
いや、おそらく無駄はきっとあるのだろうが、それを無駄と思いたくないほどここの部屋にいると幸せに、肯定的な思考になれるのだ。
最後のデザート。
これが何より圧巻。
バラの花が敷き詰められた中に、北海道産のマンゴーがバラにアレンジして提供される。
食す前、シェフがテーブル全体にバラをちりばめ、バラの中でデザートを頂く。
バラの香り、デザートの甘さ、そして程よい部屋の明るさにイエローやオレンジ色のバラが反射して部屋全体が明るくなる。
そして先にも書いた暖炉上の大きな窓が、こちら側の部屋を反射して鏡のようになるので、敷き詰められたバラのテーブルがあちらの世界にも存在する不思議な空間となる。
”美しく旨い”
本当にこれしか、無い。
食している最中、あの人にも食べてほしいと思う人がきっと脳裏に浮かんでくるに違いない。
自分の中に幸福感が満たされ、やがてあふれ出す。
その時それをシェアしたいと思うのはごく自然な感情だろう。
次回いつこれるか分からないが、その時にも素晴らしい人たちと訪れたいお店だと思った。
翌日、自宅で購入したケーキを頂いた。
今の時期らしくイチゴを使ったものだ。
酸味と甘みのバランスが抜群で、甘すぎず、しつこくなく、お腹にずしりと来ない不思議なケーキ。
こちらも、美しく旨い。
2022/01/24 更新
最も大切な人と行ってほしいお店
料理、空間、演出。
そのすべてが卓越している
2022/01/23 更新